ほっといてくれ

茶化したり馬鹿にしたりしないでください

怖い話と靴音

 気付いたらもう八月も中旬ですよ。怖い。

今週のお題「怖い話」

 

何を隠そう私は怖い話もホラー映画も心霊写真も大好きなんだけど、幽霊はまだ一度も見たことがない。心霊スポットって呼ばれる場所も何度か行ったことがあるけど、見たことのない気持ち悪い虫がいて、暗くてよく見えなくて、友達に「何か聞こえない?」とか言われても何も聞こえなくて本当に向いてないんだと思う。好きなんだけどね。
怖い話とかホラー映画とか心霊写真を好きになったのは、ドキドキするからだった。私はいつしか歪んだ性格のせいで恋愛でのときめきとかドキドキを感じることがあんまりなくて、学生時代に彼氏ができる時は基本相手がしつこくて疲れちゃっていいや付き合おうって思うパターンだった。緊張する時にドキドキってのもなかった。緊張する時は胃が縮こまるというか、吐きそうになるようなそんな感じ。びっくりする動作をしないのが可愛くないとか怖いとか言われてわざとびっくりしたフリして「心臓やばいよ〜」とかいったりしてた。今思うとまじで意味わかんない。でもそうやって擬態しないとダメというか、おかしいと思われるかなと思って気をつけてた。今は普通にびっくりするよ!突然Gが現れると「うおおおおおお!」って声が出る。

ドキドキするってことだけでもなくて、幽霊がいたらって考えるのが楽しかった。何を考えてるんだろうとか、触れるのかなとか、物理攻撃はきくのかなとか、私が死んでも幽霊になるのかなとか。「学校の怪談」ってシリーズの映画があって、その中ではいつも大冒険してるの羨ましかった。一夏の大冒険に憧れたなあ。学校に忍び込んでお化け退治っていまだに憧れる。

憧れと好奇心が入り混じってるというか、そういう感情だから、心霊スポットってところでも怖いって思わないし、夜の学校も夜の病院も、1人でお風呂入る時に見る鏡や曇りガラスも、フスマがちょっと開いてて隙間ができてても、掛け布団から出した足も、カーテンと床の隙間も、墓地も、そういうホラー映画によくある怖い場所とか部分とかも怖く感じない。急などでかい効果音でびっくりとかはある。それぐらいかなあ。


去年の夏。新しい会社に入ったばっかりで、やる気があるんだかないんだか自分でもわかんない時期。会社の同じ部署の上司数人に誘われてお酒を飲みにいった。まだ今みたいにコロナどうこうで騒がれてなくて、暑い日の仕事終わりに居酒屋で飲むお酒が美味しかった。中華屋さんみたいな居酒屋で、広いホールで多分50人くらいは余裕で入れる感じ。その日は時間が早かったせいか全然人がいなくて、私と上司4人、他のお客さんは4人とか5人くらい。すごい空いてたのを覚えてる。
そこは飲み放題2時間制だから、とにかくさっさと飲むようにって上司に言われてたからガンガン飲んだ。飲まないと!って謎の使命感があった。でも昔よりお酒弱くなっちゃって、サワーなのにきつく感じた。飲み放題だから濃くしてたのかな?6杯とかそれぐらいで酔っちゃったはず。上司達の奥さんが早く帰ってこないと怖いらしくて、2時間飲み放題っきりで解散。スピーディで最高でしたね。平日だったし翌日も仕事なんだよな〜って思ってたからありがたかった。
駅まではみんな同じ帰り道で、良かった〜って思いながら歩いた。居酒屋の場所が既に知らない土地だったから、駅までの道のりよくわかんないなって思ってたので。駅に着いたらそのまま解散。さっぱりしてて気持ちが良かった。
けど、その後電車に揺られて30分。電車の揺れって酔いが悪化するよね。私電車乗る前までは平気だったのにってことたくさんある。電車に乗って酔いが回って気持ち悪くなる。解散した時はあんなに気分が良かったのに、電車に乗ってものの5分で気持ち悪くなって、降りる駅についた頃には吐きたくて仕方なかった。
降車駅には構内トイレと駅前の公衆トイレの二つがあった。一回ホームのベンチに座ったら動けなくて、1時間近く座ってた。じめじめじわじわ暑くて、汗はもちろんかき続けてて、ベンチの近くの自販機でスポーツドリンクを買って飲んだ。少し落ち着いたので、トイレで吐いてすっきりしよ〜ってトイレに向かった。構内トイレは二つしかなくて狭いし、古いトイレだから入り口から中がほとんど丸見えで好きじゃなくて、駅前の公衆トイレを選んだ。
駅前の公衆トイレは4つ個室があって、手洗い場も3つあるのでわりかし広め。でも駅のトイレと同じくらい古いし、公衆トイレだから結構汚い。ショッピングモールとかのトイレと比べるとね。そのうえ和式しかないから結構吐きづらい。まあでも仕方ないから、公衆トイレの一番奥の個室に入った。3番目の個室が〜とか1番の奥の個室が〜とかそういう怖い話は聞き飽きたほどに聞いたけど、その時は全然そんなこと頭によぎらなくてさっさと吐いて帰ろうって思ってた。
個室に入ってさっさと吐いたんだけど、なんかまだちょっと気持ち悪くて、吐けそうなような吐けなさそうなような、自分でもよく分かんなくてとりあえず一回トイレ流してから壁に寄りかかるようにして立ってた。壁はまだきれいな方だな〜地面と天井がやばい、蜘蛛の巣はってるとこあるよ…とか思いながら。多分時間は夜の10時とかは回ってたと思う。人の多い駅じゃないから静まりかえってた。虫の鳴き声ぐらいしか聞こえなくて、吐くには丁度良かったかもって少し安心した。
5分も経ってなかったと思うけど、壁に寄り掛かったまま自分の体調を様子見してたらトイレに靴音が入ってきた。変な言い方だけど、トイレの外に人がいるって気配を感じてなかったから、靴音が入ってきたって感じだったの。革靴かな?って感じの靴音。女性トイレで革靴ってあんまり聞かない気がしたけど、おっさんファッションみたいなのも流行ってたしな〜って別に不思議にも思わなかった。革靴の靴音はすごいゆっくりしてて、こつ……こつ……こつ……って歩く速度が遅過ぎてそこで不審者なんじゃって不安になった。でもトイレの個室のドアが開閉する音がして、その靴音がトイレの出入り口に一番近い、一番手前の個室に入ったのがわかったから勘違いか〜ってすぐ安心した。私と同じで吐きそうな人ってこともありうるなーって。
しばらくして、その靴音が入った一番手前の個室のドアが開閉して、靴音が出てったのがわかった。でもすぐにまたこつ……こつ……こつ……って靴音がして、手前から二番目の個室のドアが開閉した。その時点で私はこの不審な革靴のせいで吐き気なんて治ってて、もしかするとこの流れで私の個室に入ってこようとするんじゃないかと思った。
案の定、その靴音は手前から二番目の個室から出て行って、また同じようにこつ……こつ……こつ……ってゆっくりした足取りで手前から三番目、私の入ってる個室の隣に入った。いくつものホラー映画を見ていくつもの怖い話を聞いて読んできた私にはもう「こいつ次は私の入ってる個室に入ろうとしてくる」としか思えなかった。隣の個室にいるってだけで気持ち悪いのに、入ろうとされたらどうしたらいいんだって冷や汗がだらだら垂れてきた。手足が冷たくなっていって、これが怖いってことかと思いつつどうしたらいいのか分からなくてとにかく沈黙。誰かに連絡なんてもちろん考えられなかった。もし連絡する時に音をたてたらって思ったら無理だった。
隣の個室のドアが開閉する音がした。靴音は二回した。こつ……こつ……って二回。トイレってやたら音が響くよね。はっきり聞こえるその靴音が何度響くか数えてた。でも、二回聞こえて止んだ。虫の鳴き声しかしなくなって、私はひたすら息を押し殺して相手の気配を探ってた。でも相手に気配なんて最初からなかったから、全然分からなかった。靴音がするなってだけで、それ以外の音がなかったから。服がこすれる音とか、呼吸の音とか、カバンを持ち直す音とか、そういうのが一切なかったから気配ってものは感じ取れなかった。
20分ぐらいはそのままじっとしてたと思う。でも私はあんまり長時間待てないタイプなので、いいや開けちゃえと思って自分の入ってるドアの個室を開けた。もう気持ち悪くもなかったし、早く家に帰ってお風呂に入りたかったから。
ドアを開けた先には何もなかった。ただの小汚い古臭い公衆トイレ。靴音っていうか靴もないし、私が入った時に見た光景のまま。隣の個室もドアが開いてて誰も入ってない。その隣も。全部ドアががらんと開いた状態で、誰もいなかった。
怖いって思いもあったけどそれより誰もいないことに安心して、めちゃくちゃ大きいため息をついたのはっきり覚えてる。トイレの出入り口付近にある手洗い場で手を洗って、ハンドタオルで手を拭いて、さー帰るかってトイレの出入り口に歩き出したら、背後で音がした。こつ……こつ……こつ……って、今度は三回。その音を聞いて私は何か考える間もなく走って近くのコンビニに逃げ込んだ。
あの足音は、私が入ってる個室が開くのを待ってたのかな?





 

 

っていう嘘の話でした。
実際大昔に地元の駅の公衆トイレで吐いたことはあるけど、吐いてさっぱりして普通に家に帰った。
夜の公衆トイレも怖いって思わないし、靴音聞こえても全然気にしないと思う。ていうか吐いてる時とか気持ち悪い時ってそれどころじゃないよね。
ただ怖い話をしてみたかっただけです。